最高裁判所第一小法廷 昭和30年(オ)995号 判決 1958年6月05日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人弁護士鬼形六七八の上告理由第一点について。
しかし、原判決認定のような事実関係の下において、被上告人が上告人の三男鈴木貞男に上告人を代理する権限ありと信じ且つしかく信ずるについて正当の事由があつたものとした原判決の判断は、当審もこれを正当として是認する。所論は原判決の認定していない所論事情を主張して原判決の右判断に所論の違法あるが如く主張するものであり、ひつきよう原審の専権に属する事実認定を非難するものでしかなく、上告適法の理由となすを得ない。
同第二点について。
本件田の売買契約について県知事の許可を得ていないことは所論のとおりである。しかし、原判決はその判文の示すとおり、右売買契約は県知事の許可を停止条件として効力を発生させる趣旨の契約であつたと認定しているのであり、その限りにおいて、その効力を否定する所論法令上の根拠を見出し得ないばかりでなく、原判決の認定していない所論事情に基いて右条件が不能の条件であるとも認め難いから、所論もまた採用できない。
同第三点について。
しかし、原判決認定のような事実関係の下において、被上告人に履行の着手が既にあつたものと認めた原判決の判断は正当である(所論判例は本件と事案を異にし必ずしも本件に適切のものとは認められない)。所論は右事実関係と相容れない事実を主張して原判決の右判断に所論の違法あるが如く主張するものであつて採るを得ない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 真野毅 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎)